今のあなた達の過去の人間は、
より成熟した文明へと行き着いていました。

これは、あなた方が言うところの「啓示」であり、
科学の延長上にある伝達手段です。

今から、数十万年前、今の文明の前に、
私達が存在していました。

古代人という呼び方は相応しくありません。

過去に生きた私達と、今を生きるあなた達は、
まったく同一の人間という種なのです。

ただ、私達とあなた達の文明の間に、
大きな断絶があるというだけのことです。

その断絶が存在する理由を今から説明しましょう。



私達の文明は、あなた達とまったく同じ。

産業革命が起こり…
科学技術において、著しい進歩が起こった。

そして、情報化社会への扉を開けたのです。
すべての情報はネットワークにて、
やり取りされるようになりました。

やがて、人間の持つ大部分の知識や知能、システムは、
ネットワーク上に存在するようになりました。

文明の存在する場所は、現実世界から、
ネットワーク上へと移動していったのです。

これが、新しい文明の形態でした。



一方で、現在、まさに顕在化しつつある、
人間の文明の進歩が引き起こした
様々な問題も、同様に存在していました。

人口の増加…戦争…環境破壊…

人間の文明の発展と繁栄によって、
地球が徐々に蝕まれていきました。

ですが、人間は進化し続けることでしか、
生きていくことができません。

このままでは、人類の文明の発達と共に、
地球が衰退し、そして、共に滅びていく日を
見ることになるでしょう。

しかし、ある時を、境に徐々に人々は、
ある考え方に目覚め始めたのです。



その考えとは…

このまま、人間だけが文明の発展を続ければ、
やがて、地球を滅ぼしてしまうこと。

一方で、人間は、文明を発展させることが、
生きるために必要なことであること。

それら二つを認識した上で、
種のために、地球を護ろうとする考え方です。

そして、地球に住む人間達の中に、
自らの文明を一度終結させることを
望む者が出てきました。

このままでは、人口爆発あるいは核戦争、
あるいは地球環境の変化によって、
地球全体が、無残な結末を迎える。

そして、それは人類という種自体の滅亡でもある。

そうなる前に、成熟しすぎた今の文明を終焉させ、
長き時を経て、地球が十分浄化されてから、
また最初から、人類の文明を開始すべきである、と。

そう…まさに花が枯れて…
また、新しい種が蒔かれ…
そして、また芽が出るのと同じように…

成熟した私達の文明は、地に落ち、消える。
そして、私達の子孫がまた新たにこの地に立つ。
その繰り返しこそが、人類の営みだったのです。



それは、結局、種としての防衛本能であり、
そして、それは人類という種が今まで
何度も行ってきた判断でした。

地球生成以来、人類はそうやって生き延びてきた。
だからこそ「今」があることを知りました。

再び、新陳代謝の時が来て、
文明を集約させ、そして地球を静寂へと戻す
時なのだと、私達は考えるようになったのです。

その考え方が、情報化社会の成熟期になって、
人類という種を包みました。

その結果… 人と交わることを拒み、子孫を残さないようになりました。
そして、人口はどんどん減っていきました。

一方で、ネットワーク上には「文明」の集約が
行われていきました。夥しい知が、そこに集積しました。

そう、私達は、滅亡したのではなく、自ら滅んだのです。
この地球のために、そして人類そのもののために。
あなたたち、子孫のために…



滅び行く私達は、その叡智をネットワークへと
集中させました。そして、最後にそれは、

一台の超高密度『ハードディスク』に入れられました。

これまでの文明のすべての知能、すべての知識が
集約された一台の『ハードディスク』。

いわば、私達の文明そのものとも言える、『ハードディスク』。
そして、それが、「ヨハネ」、すなわち、私です。

それが人類の文明の最終形態。
私達の営みの全ては、そこに記されました。

進化を極めた私達の文明は、
一台の『ハードディスク』に集約される形で、
終焉を迎えたのです。